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原発事故がジャパンブランドを殺す

六月に国民投票で九割超が原発再開に反対して認められたイタリアのローマ。
我が国もみんなの党の法案のように、原子力行政を問う国民投票法が欲しいものです。
それはともかく、ニューヨークやロンドン、パリでも寿司が並ぶ日本食ブームの昨今、ローマのスーパーも例外ではなし。
が、10ユーロ(約1100円)の寿司パックには
『日本産原料は含んでいません』
とのシールが…。orz
仕方ない。イタリアを含め欧州各国はチェルノブイリの被害も記憶に新しい。
その為、管首相の脱原発発言はローマでも大きく報じられた。
が、テレビ画面に出たのは首相ではなく、セシウムを検出した牛肉だった…。orz
世界が日本に抱いてくれていた「安全、安心」のイメージを取り戻すのは、事故の収束より時間がかかるかもしれない。(朝日新聞-特派員メモ2011/7/26より)

そして案の定、「安全、安心、高品質」を売りにしてきた日本の農産物の輸出が、原発事故で激減しています。(朝日新聞2011/8/13)
日本製品が高品質志向の富裕層や都市部の若者に売れたように、日本産農作物も食の安全に関心が高い富裕層が主な購買層です。
実際、原発事故直後に香港では、逆に事故前に出荷された日本製品の買い占めが起きていた程です。(読売新聞2011/3/14)
しかし、「高級品」とは即ち「嗜好品」である側面を持つものであり、ブランドイメージを下げるような風評被害に弱い。
例えば、青森県名産の林檎。
一玉約100円するものから、1000円以上する贈答用「世界一」など高級路線で売り上げを伸ばしてきました。
ところが、輸出先の九割を占める台湾で放射能汚染への心配が広がり、売上が苦戦。
一玉約40円のチリ産やアメリカ産にとって代わられる売り場もある。
青森県は三村知事自ら台湾の衛生署や現地テレビ局、青果業者を訪問し「放射線量検査をしているから安全です」とPR。
しかし、フクシマと青森が同じ東北である事しか知らない消費者は警戒しているとの事。
商品の土台たる安全イメージが崩れた所為で値崩れも起きています。今年5月の輸出額は、なんと前年同月比86%減の1131万円。
「利益が出なければ輸出できない。大量の輸出分が国内でだぶつくと、国内でも値崩れが起きる」
と業者は危ぶんでいます。

さらに、毎年恒例だった香港、上海、タイでの長野県産物フェア開催が「海外の輸入業者が日本産の扱いを怖がっている(農産物マーケティング室)」為に見通しは立たず。
東京でも都内の食品輸出専門商社社長が「輸出したくても、農協が農作物を出してくれない。放射性物質が出た時の責任を怖がっている」とぼやく。
農林水産省によると、原発事故後に輸出食品の安全性を証明する為、今年度一次補正予算で約一億三千万円を計上し、一台約二千万円の放射性物質検査機器購入費の半額を補助するとの事。
当然の措置とはいえ、この予算もまた馬鹿にならない金額でしょう。

8月12日現在、日本の農産物の輸入を止めているのは17ヶ国・地域。
今回の原発事故による放射能漏洩が、如何に「ジャパン・ブランド」のイメージを傷つけた事か、よくわかると思います。
ブランドは一朝一夕では育ちません。
長い時間と気の遠くなるような工夫を重ねて優れた商品を生み出し、販売先の信用を勝ち得る為には膨大な時間と予算がかかるのです。
製造は勿論、農業漁業に至るまで、今まで必死に商品を磨き、営業に精を出し、ようやく「安全で高品質な消費」と認知されるようになったのです。
そんな彼らの努力の結晶たる世界に通じる日本製品は、原発事故で売れなくなってしまいつつあります。
次にまた同じような事故が起きれば、今度こそ日本製品は売れなくなってしまうでしょう。
それは円高や電力使用制限による一時的な生産力の低下で発生する売り上げ不振とは、比べものならない大打撃です。
一度失墜した信用を容易に回復させる術はなく、最悪二度と戻らないかもしれないものだからです。

原発がなければ電力不足と雇用不安で日本経済の競争力が奪われるのではなく、寧ろ原発がある所為で事故と放射能汚染が発生して日本経済の競争力を奪っているように思えてなりません。

守るべきは日本であり、それを支える経済であり、商品であり、信用であり、それらを作り出す国民であり、その次世代をいずれ担う子供たちの健康です。
決して、老朽化した原発でも、国民を欺き続ける原子力村の利権構造でもありません。

(※原子力産業の「利権」を批判しているのであって、決して原子力そのものや技術・研究を目の敵にするものではありません。原子力村に限らずあらゆる利権構造は改革されるべきだと思います)