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その"死に金"は、誰かの"生き金"かもしれない

※2022-2-14加筆

高齢世代から現役世代へ資産のシフトを促して消費(※結婚資金や教育費等)に繋げようと始まった生前贈与制度が、2022年に終了するかもしれないそうです。


「富裕層の優遇策」撤廃へ 生前贈与はできなくなる?〈週刊朝日〉|AERA 2021.11.5

相続ルール改正で“暦年贈与封じ”か 駆け込み贈与の機会はあと2回|マネーポスト 2021.11.7


親の遺産を受け継ぎ続けるのは富裕層優遇ではないかとの批判もあり、日本では『三代相続すると遺産が消える』程度の課税がされています。
しかし、これらのニュースコメントの中にドキリとする意見がありました。

「例えば、障害のある子が生きていけるようにと親が残した遺産にも課税するのですか?」…と。


誰もが、働ける健康体に生まれてこられる訳ではありません。
今は"健常者"側とされている人でも、突然の事故や病気でいつ身体を壊すかわかりません。
そして"障害者"にも、重度からグレーゾーンまで様々な症状があり、全員が施設入居などの公的支援を受けられる訳ではないのが現実です。

岸田首相が設置した『新しい資本主義実現会議』に参加する、コモンズ投信会長の渋澤健氏は11月10日放送の『ニュース+9』内で「現金預金に課税すべき」「溜め込ませないで使わせるべき」という趣旨の発言をされました。
成る程。国庫のプール金も、企業の内部留保も、個人の預貯金も、"過剰に"溜め込むばかりで社会に回らなければ"死に金"であり、"生きたお金"にならないと云う訳です。
かつてウォール街の名だたる企業でキャリアを積まれた、優秀な氏らしい意見です。
(更に言えば、終戦直後に戦時国債で国の財政が借金まみれだった為に預金封鎖と新円切り替え=デノミで国民の資産を事実上召し上げた財務大臣・渋沢敬三の姪孫らしいとも…)

しかしアメリカは、超富裕層や天才にとっては天国である一方、貧困層や無才には地獄とも云える国です。
大河ドラマ『青天を衝け』第34話の岩崎弥太郎の台詞ではないですが、
「才覚ある者が強うあってこそ国利(=国を富ます)
「貧乏人は貧乏人で頑張ったらえぇ」
を地でいくお国柄であるからこそ、圧倒的な経済成長力と回復力を持ち続けてきた側面があります。
氏のように、海千山千が跳梁跋扈する世界を勝ち抜ける"強者"には、誰もが成れる訳ではありません。
日本が参考にするなら、せめて同じ民主社会主義国(※フランスや北欧等)が多いヨーロッパの水準がまだ妥当でしょう。

氏の高祖父・渋澤栄一が生涯で最も長く勤めた役職は、自身が経営する養育院の院長でした。
金融や社会インフラを担う企業を次々と創業した彼は、同時に数多くの慈善・教育事業を手がけています。
その出資を持ちかけられるので、一部の実業家たちは渋澤家のパーティーから逃げ回ったと云う逸話もあるとか。

日本には、諸外国にも決して劣らない福祉・支援制度があります。
しかし、税金で組まれた予算の使い道は、本当に必要な人々にどれほど向けられているのでしょうか?
日本にも、まだまだ成長しようと世界と切磋琢磨する優良企業がいつくもあります。
しかし、その利益は、将来を見据えた設備投資や人材育成にどれほど活かされているのでしょうか?
何より、不測の事態で窮困すれば支援を受けられ、万が一借金が焦げついても首を括らなくて済み、人生をやり直せる仕組みが機能しているのならば、これほどまでに個人が現金に固執しない筈です。

国や自治体からの『公助』が届かない…。職場や地域に『共助』を頼るのは迷惑になる…。
その不安の現れが、『自助』の手段としての"過剰"な現金預金なのではないでしょうか?
であれば、まずは国から、次いで企業から仕組みを変えてみせて初めて、個人の意識も変わると云うものでしょう。

ひふみ投信で知られるレオス・キャピタル代表の藤野英人氏は、自身の著書『投資家がお金よりも大切にしていること』で
「株やFXをやるだけが"投資"ではない」
「人は生きているだけで価値がある」
と言っています。
一円も稼げない失業者でも、外資系チェーン店ではなく、気に入った地元の店でコーヒーを買えば、結果的に内需を支える事になるように。
一円も稼げない赤ん坊が居るから、ベビー用品が売れ、保育士やベビーシッターの雇用があるように。
『労働者』や『経営者』、そして『投資家』として社会に参加出来ない事情を抱えた人々も、『消費者』としては確実に社会に参加しています。

労働の対価は尊くて、不労所得(※実際はかなりの頭脳労働)の対価は卑しいのでしょうか?
職業に貴賎は無いと云うなら、稼ぎ方にも貴賎は無い筈ではありませんか?
働く生き方と、既存の働き方ではない生き方。人それぞれの生き方に優劣など無い筈ではありませんか?

社会に回っていないように見えるその"死に金"は、『労働』や『投資』で社会に参加出来ない事情を抱えた誰かの"生き金"かもしれません。

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勿論、悪質な不正受給や脱税など犯罪行為は言語道断。徹底的に取り締まるべきです。
国税庁や会計院には、厳正かつ大局観を持って職務に当たっていただきたいと強く希望します。

そして、超富裕層や政治家などはタックスヘイブン(※租税回避地)のプライベートバンク等に資産を逃したり、家族名義の法人を設立して“寄付”と云う形で相続を行うので、贈与や相続への増税は全くの無駄という事も付け加えておきます。