(名・形動)
①隠して国民に知らせない事柄。公開する事で日米地位協定が損なわれる事柄。
「 -にする」 「 -がもれる」 「-保護法」
②国民に知らせると政権の政治生命が絶たれる事柄。
「原子力利権は-」「日米間の密約も-」
③例外規定を拡大解釈すれば、不正・汚職を永遠に闇に葬り去る事が可能な情報指定形式。
「あの不正献金も、あの手抜き行政も、-にすれば良い/霞ヶ関残酷物語」
④権力のスキャンダル。
<『悪魔の辞典 政治編 2014年版』>
こんな『秘密保護法』は嫌だ!
第二次世界大戦下。
ヨーロッパ戦線では、技術立国ドイツ最高の暗号機が作り出すエニグマ暗号に、イギリス最高の頭脳を持つ天才数学者アラン・チューリングが挑んでいた。
同じ頃、日本(*1)は自国の軍事行動や政府中枢の情報を国民には必死に隠していながら、それらを尽くアメリカに読まれていた。
(*1 日本のパープル暗号は、敵よりまず味方に解読の手を煩わせるほど複雑難解だった為、駐米大使館は本国から送られた宣戦布告文の平文化が、真珠湾攻撃開始時刻に間に合わなかった程)
当時の日本では治安維持法によって報道と言論の自由が奪われ、特高警察が政治集会から居酒屋の戯言にまで統制の目を光らせていた。
彼らは暴力をもって、新聞には正確な戦況も国内で起きた震災も報道させず、民間人の手紙からラジオまであらゆる通信を検閲・盗聴し、果ては子供が描いた軍港の写生画まで取り締まった。
しかし、アメリカには軍の暗号を全て解読されており、国民から必死に隠していた日本軍の動きは敵国には筒抜けであった。(※特に海軍は「そちらの暗号はうちでも解読出来るくらいから危険だ」と陸軍から再三警告されていたにも関わらず無視した挙句、ミッドウェーで米軍に先手を打たれて敗北)
こうした日本中枢部の情報の管理・分析能力の欠如は、甚だ間抜けとしか言いようがない。
それを今度は、アメリカから貰った情報で中国と事を構えようというのだから、情報戦に対する意識の低さは戦前と何ら変わりない。
寧ろ、戦前は上層部は間抜けながらも日本一国で情報管理・分析を試みようとしていた(※参謀本部2部、各地の特務機関、陸軍中野学校など)が、今回は自国の代わりに他国に情報管理・分析を外注委託しようとも見える分、劣化・後退しているようだ。
アメリカからの情報を元に中国と対立するという事は、日中関係をアメリカのいいように操られてしまうという事と同義語である。
これでは、「戦後レジームの脱却」=「戦前レジームへの回帰」どころか「戦後<追米>レジームへの引き籠り」だ。
こんな国のどこが「アジアの盟主」たり得るのか?
こんな国のどこが「毅然としている」と云えるのか?
そもそも、日本がスパイ天国であるのは、「国民の監視」が足りないからではない。(公安や防衛省は「的外れ」も含めてだが意外と広い監視網を持っている)
官民共に、組織上層部の情報収集・精査・分析・管理を行う能力=「インテリジェンス」が足りないからだ。
ネットワーク化著しい現代社会においてさえ、一個人が入手出来る重要情報の数など、たかが知れている。
権限を持つ人間が、私益の為に情報漏洩に手を染める方が、よほど深刻な事態を引き起こす。
日米間の交渉に際しても、日本の"親米派"官僚が省内情報をアメリカにリークし、「こうすれば、日本政府に圧力をかけられますよ」と交渉相手のお先棒を担いでいるのが現状だ。(勿論、"親中派"や"親韓・朝派"なども同様)
外国の友人に日本の様子を書き込送ったその辺のサラリーマンを逮捕した所で、国家の安全保障上どうしようもない。
石破茂氏が「市民の(デモ活動における)絶叫はテロと同義語」と漏らした「本音」と同質のものを感じる。
村上春樹氏は、文学賞を受賞したイスラエルでの講演で、イスラエルを「壁」に、パレスチナを「卵」に喩えた。
一個人など簡単に抹殺出来る巨大な権力たる「壁」は、周囲のものを壊さぬよう、身じろぎ一つも慎重になるべきである。
だが、「壁」の前では簡単に壊れてまう「卵」が絶叫するのは、ただただ生きる為である。(報酬付で雇われたプロ市民は除く)
国民に事情を隠しておきながら、「事情も知らない国民は黙って政府の云う事を聞いていればいいんだ!」とは逆ギレも甚だしい。
民主国家において、国民が愚かなのは、政府が愚かだからであり、その逆もまた然りである。
愚かな国民に選ばれる政治家もまた愚かなのだ。(その点、自ら望んで公務員試験を経てなる官僚は「誰にも選ばれていない」自薦で就いた職ともいえる)
これでは、まともなスパイ防止法の策定・運用など夢のまた夢である。
日本にはインテリジェンス能力を持つ人材は居ても、彼らの意見を取り上げ、政策に活かす行政機関が存在しない。
大戦末期の日本では、悪化する戦況に対し、よりにもよってソ連を和平交渉の仲介に頼もうという案が持ち上がった。
在スウェーデン(*2)日本大使館の駐在武官・小野寺 信(おのでら まこと)から、スターリンは信用出来ないという情報が日本本国へ送られていたにも関わらず、この重要情報は肝心の本国の手で握り潰された。
(*2当時、スウェーデンは中立国として日本と連合国の終戦における事前交渉役だった)
ヤルタ会談での密約に基づき、日ソ中立条約を破棄したソ連が侵攻を開始した報に接して初めて日本は現実逃避をやめざるを得なくなったのである。
現在の外務省はアメリカ帰りと親のコネ採用が多い所為か、アメリカのご機嫌をとる事ばかり優先して、ネットで一般人でも手に入るレベルの情報も精査出来ない有様である。
元はアメリカが中国との開戦を想定して、同盟相手である日本に「軍事情報のみ」の「秘密」を保護する法律を要求した。
アメリカの威光を笠に着た政治家や警察官僚がそれに便乗し、軍事以外にも範囲を広げた言論統制法に改悪したのが『特定秘密保護法案』の正体と云えよう。
政権が法案成立をみっともないくらい急ぐのも、アメリカに急かされているからと、情報公開義務の怠慢を合法化出来るこの機を逃さんとしているからとしか思えない。
中国では共産党の言論統制に対し、ネットを知る若い世代を中心に強い反発が広がっている。
中国で人民が「知る権利」に目覚めようとしている時に、言論の自由が憲法で保障されている筈の日本が国民から「知る権利」を取り上げようとしているのは、時代の逆行に思えてならない。
日露戦争で作戦参謀を務めた秋山真之は、海軍大学校の教官時代にこう書いている。
「有益なる技術上の智識が、敵に遺漏するを恐るるよりは、むしろその知識が、味方全般に普及応用されざるを憂ふる次第」
役に立つノウハウを、敵に知られまいと恐れて秘密にする必要はない。
寧ろ、そのノウハウを多くの味方が知る事も出来ず、それらを発展させる機会も奪ってしまう方が余程良くない。
真之は学長の東郷平八郎にそう主張した。
国際的情報戦は、互いの事情など筒抜けである事を前提にしつつ、識りうる限りの情報から如何に多くの事を読み取り、それを実際の交渉に活かすかが勝負である。
たとえ、同じ情報を同時期に得ていたとしても、このインテリジェンス能力があるか否かで、それぞれの結果は雲泥の差となるのだ。
インターネットの進歩・普及によって、権力に依らない一市民でも情報を発表・入手する事が可能になった。
近代以降、国際情勢から私生活まで情報量は増加の一途をたどっている。
つまり、情報の鮮度は年々短命化しているのだ。
一度得た情報を後生大事に隠しておけば優位に立つ事が出来た時代は終わった。
本当に保護されるべき秘密は、最新の防衛・外交情報と企業の核心技術、そして個人の私生活くらいであろう。
【おまけ】という名の蛇足…
ソ連人の幸せ。
家に押しかけてきた秘密警察が、人違いに気付いて帰ってくれた時。
『世界のジョーク集 1990年版』
日本人の幸せ。
家に押しかけてきた特高警察が、人違いに気付いて帰ってくれた時。
『世界のジョーク集 2030年改定版』
こんな日本は嫌だ!