かんぽがアヒルに乗っ取られた!?

※2013/7/26-14:44初出記事に加筆

あの「ア~フラ~ック♪」と鳴くアヒルのTVCMで有名な保険会社「アフラック」が、日本郵政を代理店代わりにして、がん保険の販売網を拡大しようとしているようです。


2013年7月26日。日本郵政とアメリカの大手保険会社「アメリカンファミリー生命保険(アフラック)」が、がん保険分野の業務提携を合意したと発表。(毎日新聞2013/7/26)
日本郵便は現在、約1千ヶ所の郵便局でアフラックのがん保険を販売していますが、その取り扱いを簡易郵便局を除く全ての郵便局に広げ、最終的に2万の郵便局で販売する計画。
また、日本郵政グループのかんぽ生命保険の直営店でもアフラックのがん保険を販売出来るようにする事で、アフラックは日本での代理店が約4万店に倍増する計算になります。
つまり、アフラックは日本郵政が旧郵政省時代から税金で築いてきた「全国規模の郵便局ネットワーク」を全面開放しろと要求したのです。(ウォールストリート・ジャーナル 2013/7/25)。

ここで、アフラックについておさらいします。
「アフラック株式会社(American Family Life Assurance Companyの略)」は、「アメリカンファミリー生命保険会社」を子会社に持つ、日本及びアメリカで生命保険や医療保険を販売するアメリカの保険会社です。
アメリカ合衆国最大の生命保険会社であるメットライフの日本法人「アリコ・ジャパン」と、日本におけるがん保険市場を二分するシェアを持ちます。
1955年、ジョン、ポール・ビルのエイモス三兄弟がジョージア州コロンバス市で創業。
がん保険分野のパイオニアとして、企業内代理店による「給与からの天引きで保険料を支払う」販売方式で業績を伸ばしました。
そして1974年(昭和49年)、日本に参入してきます。
社史には、「大阪万博で来日した創業者長男のジョン・B・エイモスが、風邪予防の為にマスクをしていた多くの日本人から、衛生に対する意識の高さを感受して、日本市場への参入を決意した」とあります。
日本進出に当っては、現地法人化ではなく、アリコジャパン等と同様に米国本社の日本支社(外国法人)として参入。
しかし、アフラック社全体の売り上げの7割以上は、日本市場におけるものです。
アフラック日本支社は、国内での税引き後利益の約70%、多い年は100%を米国本社に送金。その資金で米国本社は自社株買いを行い、株主(勿論多くは外国人)に高額な配当を支払うことで、高い株価を維持していました。
これが現地法人であれば、日本から売り上げ金を米国本社へ送金する時、更に税金がかかります。また、支社は現地法人と違って、現地に合わせた本社と異なる意思決定権がありません。

ここで、日本のがん保険事業に、驚くべきルールがあった事を書き留めておきたいと思います。
何と、がん保険を含む第三分野保険の販売事業は、事実上外資系保険会社のみに独占的に許可されており、アフラックやアリコはその恩恵の下でのビジネスを展開していたのです。
日本で日本人に売り出すがん保険の事業を「日本企業には許可しない」「許可を出すのは外資にだけ」という決まりがあり、日本のがん保険市場は外資――それもアメリカ系企業に売り渡されていたのです。
結果、がん保険分野はアフラックの寡占企業となり、1999年のがん保険販売におけるアフラックのシェアは85%以上に達していました。
そして2001年、米国の同意を得て、日本国内の生命保険会社・損害保険会社の同分野への本格参入が、初めて自由化されたというのです。
日本の企業が、日本の市場で、日本人に商品・サービスを提供する為に、何故アメリカの同意を求めらければならないのでしょう?まるで道理が通りません。

アフラックは、2000年末に第一生命との業務提携に続き、2008年10月には郵便局ともがん保険の取り扱いでのみ提携。
これにより、勤務先の福利厚生(※団体扱いによる保険料割引)の恩恵が無い世帯へ開拓を広げた事などは評価出来るでしょう。
しかし、2005年10月下旬。各生命保険会社から相次いで保険金と給付金の不当不払いが発表され、同28日にはアフラックからも45件、金額にして961万円の不当な不払いがあったことが発表されました。
2007年にも、また新たな不当不払い問題が業界全体で発覚し始め、同年2月1日に金融庁は日本の全生命保険会社38社に対して、2001年~2005年の5年間における不払いの実態調査を命令。アフラックも4月13日に調査結果を公表しました。
この時にアフラックが公表した社内調査によると、合計で19,169件、金額にして約19億円が不適切な不払い事案に該当していたことが判明。
ただし、この調査結果は調査期日に間に合わせた中途結果なので、今後も調査が続行されれば、不払い件数や金額が増加する可能性があるそうです。(Wikipedia-アメリカンファミリー生命保険会社)
最近も、2012年に多数のクレームからずさんな支払い体制が発覚し、金融庁の業務改善命令に異議を唱えながらも、結局は長期検査を受けています。
また、アフラックは2011年度において生命保険会社大手10社中、クレームの多さが断然のワーストワンでした。

アフラックの“欺瞞”にメス 金融庁が前代未聞の長期検査 / 保険業界の悪質さと外資が日本人の金で利益を得る構造を解説(週刊ダイヤモンド・オンライン 2012/7/23)

それにしても何故、大手とはいえ外資系企業に過ぎないアフラックが、半官半民の日本郵政相手にここまで強気に出られたのか?
元々、かんぽ生命は2008年から日本生命と業務提携し、独自のがん保険の販売を目指していました
しかし、日本のがん保険市場で7割のシェアを持つアフラックは、政府が全株式を保有する日本郵政グループによるがん保険販売が「公正な競争を阻害する」と強く批判。
その上、TPP交渉参加に向けた日米事前協議で、がん保険は自動車と並ぶ米国の大きな懸念事項だった事も響いたようです。
日本郵政のがん保険進出を懸念してきた米国に配慮する(=つまり、日本市場のシェアを奪われると危機感を露わにしたアフラックの要求を呑む)事で、TPP交渉での日米協調を後押しする(=アメリカにゴマをすっておこう)という日本側の卑屈な打算が透けて見えるようでなりません。

何と言っても、アフラック日本支社の現会長チャールズ・レイク氏は、入社以前にアメリカ合衆国通商代表部(USTR)の日本部長だった人物です。
米通商代表部とは、1963年の大統領令でアメリカ大統領府内に設けられた通商交渉のための国家機関。
通商代表は、長官に相当する閣僚級ポストです。
さらに大使の資格を持ち、外交交渉権限まで与えられており、世界貿易機関 (WTO)、経済協力開発機構、国際連合貿易開発会議などの多国間交渉でアメリカを代表する立場にあります。
この米通商代表部こそ、現在TPPを推し進めている大統領直属機関であり、レイク会長はTPPを推進する組織の出身という事になります。
それを裏付けるように、東京都内で日本郵政の西室泰三社長と共に記者会見したレイク会長は
「この提携は(政府保有企業と民間企業の)対等な競争条件が実現されている事例だ。日米間の交渉にもいい影響がある」
と述べています。
事実上、「アメリカの聖域」とも云える「米製自動車の輸出関税の猶予(=日本車には関税ありで米車には関税なし)」に続いて、TPP推進派は「アフラックと日本郵政の提携(=郵便局のアフラック代理店化)」を加盟の為の「手土産」にする魂胆のようです。

いずれにしても…
政府が全株式を保有する日本郵政グループによるがん保険販売が「公正な競争を阻害する」とアフラックに強く批判された事。
「(政府保有企業と民間企業の)対等な競争条件が実現されている事例だ」というアフラックのレイク会長の発言。
やはり、アメリカの云う「公正」「対等な競争」とは、「アメリカだけに都合が良い」「アメリカだけが有利な競争」の事であるのだなと確信しつつあります。

そもそも、政府保有企業と民間企業が同じ条件下で競争する必要など、全く以てありません。
民間企業は利益追求をしながら社会貢献をする組織ですが、国営企業は役所と同じで、たとえ大きな利益が出なくても国民の文化的生活に必要な事業であるならそれを行う為の組織です。
最初から存在意義が違う民間企業と国営企業を比べようとする事自体が、論理のすり替えであり、「公共」「公益」という概念が欠如しているように思えてしまいます。

それ以前から、アメリカは米通商代表部に、世界各国のアメリカに対する不公正貿易に関した調査・勧告を記した「外国貿易障壁報告書」(National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers、通称「NTEレポート」)を毎年3月頃提出させています。

外国貿易障壁報告書(NTEレポート)について / 経産省公式サイト 内

不公正な貿易や輸入障壁がある、若しくはあると疑われる国に米通商代表部を通じて「改善」を要求し、3年以内に改善されなければ、報復として関税引き上げを実施するという非常に強い力を持った条項です。
知的財産分野では、日本も標的にされた時期がありました。
これらは、WTO協定等の国際ルールに基づかないアメリカ一国だけの判断による一方的措置であり、当然の如く多くの国から強い批判を受けています。
ただ、スペシャル301条(1974年施行)で、世界の知的財産保護水準の向上に大きな役割を果たした側面もありますが。

さらに不可思議なのは、ブッシュJr大統領(当時)との親密さをアピールしていた小泉政権下で日本の郵政省は民営化された(2008年)のに、アメリカの「合衆国郵便公社(United States Postal Services)」は大統領管轄下の独立行政機関(=つまり国営)のままという事。
明らかに不平等です。これは、非常におかしな事ではないでしょうか?

まさか、アメリカや日本の親米派が言う「日米同盟」とは、「独立国同士の対等な協力関係」の事ではなく、ただの「米国追従協定」の事なのでしょうか?
いやしくも、日本は独立国の筈です。
独立国が自国内で自国民向けの事業をするのに、外国の同意を仰がなければならないとは、一体どういう事なのでしょう。
あまつさえ、自国の企業には参入さえ禁じておきながら、外国の企業には独占を許していたなど、まるで本当に「植民地」に成り下がってしまったかのような醜態に見えて仕方ありません。

同記者会見で、日本郵政の西室泰三社長は「全国の郵便局網を活用でき、株式上場を目指す上で大変意義がある」と発言。
アフラックは、日本向けの新たながん保険を共同開発とも発表しており、日本郵政の上場予定である来年秋に間に合わせる予定だそうです。
が、肝心なのはここから。
西室社長は、傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株式を、持ち株会社である日本郵政の上場に合わせて売却する考えを示しました。
これは、政府が全株式を保有していたからこそ、今までハゲタカ外資の魔の手から守られてきた「ゆうちょ」と「かんぽ」が、何処の馬の骨ともしれない資本に買い漁られる危険性を感じてしまいます。
さらに最悪の場合、「株主への配当」の名の下に、顧客の預貯金や保険金を焦げ付き必至のジャンク債に投資し、高利で役員や株主だけが高給料・高配当をせしめて、損害が発生しても顧客が預けたり積み立てたりしたお金は戻らない…という事態もありえなくはないように思うのですが。

外国に国内市場を売り渡した反省もなく、今も似たような事をしようとしているのなら、今更どの口が「愛国」「毅然」「強い日本」などと言えるのでしょうか。
派手な言葉を振り翳すよりも、気が大きくなるナショナリズムに酔うよりも、国民の代表として「国民の生命・財産・未来を守る」為に役目を果たす事。
国政に携わる者にとって、これ以上に大事な仕事など無いのではないでしょうか?