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「震災」復興予算が「省庁」復興予算と化す病理

9月9日放送のNHK『追跡 復興予算19兆円』は、施行後つい忘れがちな事後検証を試みる良く出来た番組でした。

周知の通り、被災地の為に使われる筈だった総額19兆円もの予算のうち2兆円以上が、霞ヶ関によって被災地外の公共事業に流用されていました。
本当に必要な事業だというなら、一般予算から出せば良い筈です。
発覚した主な流用先だけでも、沖縄国頭村の国道58号線整備(国交省)、国立競技場復旧事業(文科省)、川崎の刑務所の訓練費用、国際青少年交流事業(外務省)、調査捕鯨のシーシェパード対策費(農水省)、広島の海保大学校の入浴設備等、被災地復興とは地域も内容も関係のない事業ばかりです。
何故、全く違う目的で組まれた筈の予算に手を突っ込むような真似をする必要があるのでしょう。

津波で流された庁舎や公共施設の建て替え、小中学校の対震工事、地盤沈下した沿岸部土地のかさ上げ、浸水地域から高台への集団移転等に対しては、揚げ足を取るような細かい注文を付けて手続きを遅らせ、復興予算もまだ付かず。
一方で、被災地以外の官庁施設工事には復興予算をどんどん使用し、既に工事が完成している。
これは、巾着切りというか、所謂ネコババという行為ではないでしょうか。
被災地の地元中小企業から仕事を取り上げて、ゼネコンや身内の組織に渡すだけでは飽き足らず、復興の為に国民の税金から捻出した予算をも被災地から奪い取ろうとは、強欲を通り越して弱者を害する横暴に見えてしまいます。
特に、文科省の独立行政法人「日本原子力研究開発機構」が進める「国際熱核実験炉計画」という核融合炉の研究費用に42億円もの復興予算が計上されていたのには、福島の原発被災者を愚弄する笑えないブラックユーモアのように感じました。(原子力研究は重要ですが、原発労働者の保障体制と事故被害者救済の予算が先決)

私達国民は、あの地震の津波で瓦礫の化した被災地に、直接役立てられるのが「復興予算」と呼ばれていると信じていました。
「被災地復興の為」と聞かされていたからこそ、納税者は所得・住民税を長期に亘って負担する「復興増税」に協力した筈です。
ところが、蓋を開けてみれば、「被災地」の為だった筈の復興予算が、官僚の利権拡大の為の「省庁」復興予算にすりかえられていました。
震災後に幾人か出た、善意で集まった募金を懐に入れようとして逮捕された不心得者と何ら変わりありません。
寧ろ、税金を接収出来る権限を持ち、動かせる金額の巨額さから云えば、市井の小悪党などよりも更に悪質な行為と云えるでしょう。

政府も「今後は復興予算の使途を被災地に直接関連する経費に限定する」という事ですが、今更言語道断です。早急に手を打つ、と宣言して実行すべきでした。
「今後」も何も、復興予算は元から「被災地の為」に組まれたものなのです。
そこに自民党が予算案賛成の条件として、「復興の基本方針」に「震災を教訓とした全国的防災・減災の施策」」「活力ある日本の再生」といった、予算の使途を拡大解釈可能な条文を入れさせたようです。
結果、「地震に対する防災・減災」「日本再生」の名目さえつければ、全国どこにでも復興予算を使える「白蟻官僚の餌場」になってしまいました。
「被災地」の為にだけ限定的に使用される筈だった予算の基本方針に、「全国」などという相反する言葉を入り込ませた官僚達の作為の手先に成り下がった自民党の凋落振りが窺えるように思えてなりません。

何より、予算を査定する立場たる当の財務省が、これらの流用を許した挙句、自らも中央合同庁舎4号館や各地の税務署の耐震化に復興予算を引き出すという本末転倒な行為に及んだ事。
これらはやはり、霞ヶ関のモラルハザードの表れという事なのでしょうか。
だとしたら悲しいかな。日本の「エリート」とは、あまりにも「お粗末な人材」の集まりだと言わざるを得なくなってしまいます。