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【まとめ】大地の叫び 連載を終えて

大地の叫び~放射能に蝕まれるナバホの村~

三週にわたってお送りしました『大地の叫び~放射能に蝕まれるナバホの村~』は、如何でしたでしょうか。

スリーマイル島事故と同じ年に、これだけの深刻な放射能漏れ事故が発生していた事も、そこがナバホ族の居留地であった事も、除染も補償もされないまま住民が癌に蝕まれ続けている事も、恥ずかしながら知りませんでした。
チェルノブイリ、チャーチロックとスリーマイル、そしてフクシマ。
これらの原発事故と放射能汚染をもたらした原子力行政・産業の無責任さは、決して「この原発事故はメード・イン・ジャパンだった(国会事故調査委員会・黒川清委員長による序文より)」のではなく、どの国であろうと変わりがないのだと感じさせられました。

軍産複合体のような政財官の癒着構造の上に成り立ち、不必要な事業や危険な運営を強行・隠蔽し、異見を唱える者や不正を告発する者は脅迫して口を塞いだ上に、最悪死に追いやるような行政・産業が果たして健全な組織と言えるのでしょうか。
そのような組織が、堅実な経営努力と安全対策をし続けられるのでしょうか。
甚だ疑問です。正直、とても怖くて信用出来ません。

誰かの犠牲の上に成り立つシステムは、明らかにフェアではありません。
アンフェアなシステムは、綻びから崩壊を招き、持続性がありません。
「なら今すぐやめろ」という暴論では、暴力革命と同じ論理になってしまう上、特権階級が入れ替わるだけで何の解決にもなりません。

必要なのは、足るを知る事。
過ちを明らかにして認める事。過ちを責めるより実際に改めていく事。
恵まれている人は、現状に感謝しつつも、甘んじる事なく、未来にも続く幸福を模索し続けていく事。
恵まれていない人は、現状に絶望する事なく、苦しみを知る者として声を上げ、自らも幸福を掴む事。
そして、人として生きる為に一番必要な事。
それは、調和。
他者との調和。自らの心と体の調和。生きる糧を与えてくれる自然との調和…ではないでしょうか。


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大地の叫び3 スリーマイルの陰で

1979年。アメリカ史上最悪の放射能事故が起きました。
場所は、ニューメキシコ州のチャーチロックというナバホのコミュニティ。

カー・マギー社のウラン精錬所から出た鉱滓を貯めていたダムが決壊。コロラド川支流のプエルコ川に流れ込んだのです。
この川を水源としているナバホ族1700人が被害に遭い、汚染した水や草を食べたり飲んだりした羊や家畜が被曝。
その後、同社は除染も行わないまま操業を続けた末、1985年に撤退しました。
閉鎖された精錬所のゲート脇の放射線量は、自然界平均の二倍以上。
ダム決壊事故の4ヶ月前には史上最悪と言われたスリーマイル島原発事故が起こったばかりでした。
「マスコミはスリーマイル島事故を連日報じたが、ダムの事故は何も報じなかった。ナバホ族の住む土地で起こった核事故だからだ。これは先住民への差別だ」
地元に住むテディー・ネッズさん(65)さんは、そう言って怒りを露わにしたといいます。

乾燥しきった大地で水は貴重品です。彼らは放射能に汚染された地下水を「いのちの水」として飲み、子供たちも汚染されているという小川で日常的に遊ぶ…。
このチャーチロックにおける汚染残土の近郊河川への流出事故は、映画『ホピの予言』でも取り上げられましたが、スリーマイル島の事故に隠れて当時は殆ど知られる事はありませんでした。

さらにこのカー・マギー社は、1974年に「シルクウッド事件」と呼ばれるスキャンダルを引き起こしています。
オクラホマ州クレッセントの近くに、同社が所有するシマロン核燃料製造所ありました。
そのプラント内で行われた不正を証言しようとしたカレン・シルクウッドという化学技術者が、告発の為の証拠書類をニューヨーク・タイムズ紙の記者に渡しに行った途中、不審な自動車事故で死亡。
「衝突」事故である筈の現場に「追突」事故の痕跡が多数見受けられた事から他殺の可能性が指摘され、原子力業界を揺るがす一大スキャンダルとなり、のちにメリル・ストリープ主演で映画化もされた程でした。
カレンの父親と子供たちは、1979年にカー・マギー社に対して遺族を代表して訴訟を起こしました。
この訴えは、1984年にカー・マギー社が138万米ドルで示談に応じましたが、いかなる責任も認めなかったので、遺族側は再審を目指します。
しかし、その間にFBIは事件の真相を調査した膨大な資料を金庫に封印してしまい、彼女の死後も関係者の証人喚問が近づく度に一人、また一人と謎の死が続いたといいます。

そして現在、ニューメキシコ州のナバホ保留地には、25億ドル規模の石炭火力発電所を含む「沙漠の岩のエネルギー計画」が進行しています。
しかし、近隣のユテ族などが大気汚染を懸念してこれに反発。
一方、ホピ族は同施設に雇用創出の期待をかけており、2009年10月にこの石炭火力発電所の閉鎖を要求する環境保護団体に対し、批判声明を発表。ナバホ族もホピ族の批判声明に賛成しているそうです。

大金を握る国や企業からの「安全を取るか?経済を取るか?」という誘導尋問に翻弄され続ける人々は、今もなお世界中に存在します。そして、彼らの多くは苦しみ続けているのです。
故郷と、誇りと、命と、未来と…
これらを買い叩き、売り渡す所業が、そうさせる社会が、悲劇でなくて何であるというのでしょう。
経済の為に生活するのではなく、生活する為に経済があるというのに。

忌まわしき「ウラニウムでできた十字架」につるされたままでいる必要はありません。
なぜなら、それは人の手で掘り起こされ、集められ、濃縮された、本来は自然界に存在しなかったものです。
人の手で作られたものは、人の手で変える事も出来る筈です。
そして、同じ人の手で新しい「精神の輪」を作り出す事も、また出来る筈ではないでしょうか。

ナバホの土地で今なにが起きているのか / Native Heart
放置された放射能被害 アメリカのウラン鉱山開発に日本企業が出資 / 全日本民医連
カレン・シルクウッド / Wikipedia
原発によって消されたシルクウッド、その物語 / 新じねん


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大地の叫び2 繰り返される「原子力と金」の問題

2006年。ナバホ部族会議が居留地内にあけるウラン採掘の禁止を宣言しました。

背景にあるのは、アリゾナ州北部ブラックメサ周辺の居留地内に放置されたままの大量の放射性物質でした。
汚染された鉱滓や残土や廃棄物は、今なお人々の体を蝕み続けています。
ナバホの人々は鉱山の労働力として雇われた後、剥き出しの核廃棄物が点在する土地での生活を余儀なくされてきました。
埃となって舞い散る汚染された土を吸いこみ、汚染された水を飲み、鉱山や廃鉱から出た汚染された残土で作った家で暮らす。
そうするうちに、人々は次々と癌を発病していきました。
鉱山労働者の肺がん罹患率は、他のナバホ族平均の28倍、子供の骨癌罹患率も全州平均の5倍にもなります。
しかし、合衆国政府は、まるで「インディアン絶滅計画を今も推し進めているかのように」全く手を打とうともしないといいます。

このナバホの土地のほぼ中央にはホピの土地もあります。
ホピ族の居留地は周囲をナバホ族の居留地に囲まれており、これはロング・ウォークでナバホ族が一度強制移住させられ、南西部から姿を消した後の土地に住み着き、村を開いた為です。
のちにナバホが帰還した後、パレスチナ問題のような現在にも続く土地紛争が起きてしまいました。

ここは、世界でも有数のウランが豊富に埋蔵されている土地です。
その至る所に、かつてウラン鉱石の鉱山だった廃坑が点在し、周辺には放射線に汚染された残土などが何の安全策も講じられぬまま野積みにされています。
そのエリアには、観光地としても有名なモニュメント・バレーも含まれています。

1944年から1986年までの間、核兵器と原子力発電の需要を満たす為に400万トンものウラン鉱石がここから掘り出され、放射能に汚染された鉱滓の大半がナバホの土地に撒き散らされました。
そのうちおよそ1000ヶ所が、現在もそのまま放置され続けています。
これらナバホの人々を蝕む放射能は、軍拡競争で大量の核兵器を作り出した冷戦時代の置き土産とも言えるでしょう。

そこへ
「ウラン鉱山会社が最近のウラン価格高騰を背景に、再びナバホの大地に眠る膨大なウランに触手を伸ばしつつある」
とロサンゼルスタイムズ紙は報告しました。
しかも、彼らは
「今度は新しい技術を使ってウラニウムを『安全』に掘り出す」
とナバホの人々に大金をちらつかせながらささやいているというのです。
関係者から「ウラニウムのサウジアラビア」とまで呼ばれる程の埋蔵量があり、この資源を狙う企業の中には日本の大手商社・伊藤忠商事も含まれていました。
ウランを買いたいと申し出た伊藤忠の会長に対して、ナバホ部族会議の議長は
「われわれはいかなる採掘もわれわれの共同体のなかでおこなわれることを欲しない」
との拒絶の手紙を送ったといいます。
ナバホの人々は今後もいかなる採掘をも絶対に認めないと言ってはいます。
それでも、ナバホの土地に眠るウラニウムを虎視眈々と狙う企業はあとを絶たないそうです。

こうしたナバホにおける放射能汚染の現状を世界に知らしめる為、当時のロサンゼルスタイムズ紙は「荒廃する故郷(BLIGHTED HOMELAND)」と題してキャンペーンを展開しました。

BLIGHTED HOMELAND-荒廃する故郷- / ロサンゼルスタイムス_ナショナルニュース内(英語)

ホピが予言した「灰のびっしり詰まったひょうたん」は遠い極東の空に降り注いだ後も、掘り出された土地をその残り火で蝕み続けていました。
そして、ナバホ族がどれだけ大金を積まれても首を縦に振らない理由がもう一つあります。
それは、1979年に起きた史上最悪の放射能漏れ事故に起因していました。


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大地の叫び1 狙われた故郷

フォーコーナーズという場所があります。
ユタ州、コロラド州、ニューメキシコ州、アリゾナ州の4つの州の境界線(=4corners)が集まった地点です。
アメリカ先住民のユト居留地、ナバホ居留地、ナバホ居留地内部のホピ居留地に重なる場所であり、州名と州境を表示した記念碑はナバホ政府が管理しています。
この土地にはウラン採掘所があり、広島・長崎に投下された原子爆弾の原料が採掘された場所でもあります。

彼らの居留地は、ウランの他にも石炭など地下資源が豊富で、20世紀初頭から合衆国政府によって埋蔵資源が幾度も狙われてきました。
1906年、合衆国政府はホピ居留地に騎兵隊を送り込み、老若男女全部族民(1904年の人口調査では1,878人)に対して「インディアン寄宿学校」への入学を強要するという出来事がありました。
政府の目的は、彼らの土地に眠る時価10億ドル相当の石炭、石油、水資源。
この「インディアン寄宿学校」入学を強制移住の口実として、これらの地下資源を企業に売り渡す計画が進んでいたのです。
ホピ族はこれに対して断固反発。署名を拒否しました。
どんな不毛の荒地であろうと、騎兵隊に銃を向けられようと、彼らにはその土地に住み続けなければならない理由があったのです。
長老に代々口伝えらてきた『ホピの予言』にはこうあります。

この地面には、使い方によっては人類を滅亡してしまうものが埋まっている。
人類がこれを争いではなく平和に利用することが出来るようになる日まで、この場所に留まりこれらのものを守っていくように。
また、空から灰のびっしり詰まったひょうたんが降ってきたら、ホピ族に伝わる予言を広く世界に伝えるように。


その土地は、彼らの生まれた場所であり生きていく場所であるだけでなく、埋まっている大切なものを守る為に離れてはならない場所でもあったのです。
その「埋まっている大切なもの」の正体がウラニウム鉱脈だと合衆国政府が気付いた時、予言は現実のものとなっていきました。
「灰の詰まったひょうたん」…
即ち「原子爆弾」が広島と長崎に空から降り、その中身が自分たちの聖地から掘り出されたウランだったと知ったホピの長老たちは、1948年に国連でホピの予言を発表しようとします。
これが『ホピ平和宣言』です。

ちなみに、インディアンの居留地内には1940年代になっても公立の学校は作られず、「教育」は居留地外の寄宿学校で故郷から隔絶されて行われました。
強制就学であるにも関わらず、私立である寄宿学校の年間学費は、1940年代当時で50ドルという高額で、インディアン児童の親に対しても多大な経済的負担を強いていたといいます。(Wikipedia - ホピ族 他より)

そして、核抑止力による均衡平和――即ち冷戦時代が到来した事で、彼らの苦悩はさらに続く事になるのです。


ここに、「白い兄弟」たちが背負った「十字架」に警鐘を鳴らすホピ族の長老の言葉を引用します。

【予告】大地の叫び0 放射能に蝕まれるナバホの村

…と題して、特集記事を掲載します。

大地の叫び~放射能に蝕まれるナバホの村~

本館サイトの方で、夏休み企画としてアメリカ・インディアン「ホピ族」を紹介する特設ページを開設しました。
その姉妹企画として、こちらのブログの方では、ホピ族の居留地に隣接して住むナバホ族がウラン鉱山の被曝被害に遭った事件を取り上げようと思い立ちました。

スリーマイル島原発事故の陰に隠れて語られてこなかった、もう一つの「放射能汚染」についてまとめます。
週一回ごとの更新で、全三回を予定しています。


ココペリ・ヴォイス~平和の民・ホピ族~
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